弁理士のサイエンスコミュニケーション

研究職として働く弁理士が思うサイエンスのあれこれ。

ボールペンでも消えるメモ

タブレットって使いますか?」

お仕事の用事で、某大学訪問時に教授に聞かれた質問でした。

今使って数年のiPad miniがあるけど、もしかして新しいタブレットでも貰えるのでは!?など、ちょっと不謹慎なコトも考えながら話は進みました。

 

教授曰く、

タブレットを使用して、調べものすることはある。

しかし、そうするとその最中にちょっとしたメモをするのが難しい。

そこで、コレを使ってみては? という提案だったのです。

wemo

(筆記具は著者の趣味で、一般的なボールペンです)

 

メモシート自体は、裏面が吸着構造になっていてドコにでも貼り付けられるモノなのですが...

では、何がスゴイのか?!

 

まず、普通にボールペンでメモします。

落書き

 

そして、これをこすってみると。。。

 

こすってみる

こすると消えます。

(ちなみに、ボールペンは普通のモノです)

 

どんどん消えます

ちょっと強くこする必要はありますが、どんどん消えます。

(くどいようですが、ボールペンは普通のモノです。)

 

消えました。

綺麗に消えました。

 

 

教授は卒業生から頂いたモノらしいのですが、

かねてからこのメモの存在を知っており、欲しかったそうです。

 

消えるボールペンというのは既にありますが、

どんなボールペンでも消せるというトコロが斬新ですね。

 

技術内容を考える

さて、科学的に(化学的に?)考えてみる。

水と油、というように、液体はどちらかに溶けやすい性質があります。

一般的なボールペンについては、紙に書くと、濡れたりしても消えない性質があります。

このことから、ボールペンは水に溶けない性質を持っていると言えますね。

そうすると、油の方が溶けやすいと考えます(親油性)。

このシートについては、ボールペンのインクをはじく性質を持っているので、シート自体は水の方になじむ素材なのかな(親水性)?と考えます。

 

そういう観点で、このシートの特許文献を調べます。

技術内容はコチラ!

表面層形成用組成物、該組成物から形成された表面層及び油性インク筆記用面材、該面材を備える物品

物質について、たぶんキーになるのはココでしょうか?(下線は筆者)

【0023】
(b2)多官能アクリレートオリゴマーについて。
  多官能アクリレートオリゴマーは、多官能アクリレートモノマーに比べて分子量が高く、複数の繰り返し単位に2個以上のアクリル基を有する化合物の総称であり、公知の種々の多官能アクリレートオリゴマーから選択することができる。
前記多官能アクリレートオリゴマーは、繰り返し単位の種類によって、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートに大別される。上記の多官能アクリレートオリゴマーの中でも、特にウレタンアクリレートは、本発明で用いられる多官能アクリレートとして特に好適である。ウレタンアクリレートは、ポリオールとジイソシアネート並びに水酸基を有するアクリレートから合成され、公知の種々の前記ポリオール等の組み合わせによって、容易に分子設計することができる。前記ウレタンアクリレートは、強靭性、硬度、耐薬品性、密着性に優れる。このため、前記ウレタン結合を含むUV硬化性樹脂構造を備える組成物で形成された表面層は、油性インクの溶剤や染料が適度に浸透し難いなどの性質を備えることで、該油性インクが筆記の際にははじかずに表面に定着しやすい機能と、字消しによる消去が容易である機能を達成している。更には、繰り返しの筆記と消去に耐え得る硬度及び強靭性と、表面層形成用組成物として基材に対して適切な密着性を有する。

ポリオールや水酸基(親水性)を持ったアクリレート(樹脂の原料)で構成されるので、油をはじく...つまりボールペンのインクをはじく性質を持ちます。

しかし、適度な筆記性を有するためには、ちょこっと油性インクがなじむ程度の性質が必要で、そこをコントロールして作っているという感じでしょうか。

 

使用用途

これ、シート状だけでなくて、リストバンド状のモノもあります。

何故リストバンド?って思われるかも知れないのですが、これは看護師さんの為に作られたものだそうです。

忙しい現場では検査値など手にメモることがあります。

しかし、その手のまま次の患者さんへ...と訪問すると、検査値が他人に知られる可能性が出てきます。

そこで、そうした不具合を防止する為に、リストバンド状の消せるメモを開発したのだそうです。

 

感想

消せるメモ...という響きが、秘密内容の伝達とか何故か中学二年生男子特有の発想をしてしまうのですが、短期記憶の様に使えるのはとてもおもしろいと思いました。

(筆者は電話メモに使ってたりします)。